トランプ政権の対イラン制裁が停滞しています。
業を煮やしたトランプ政権は今月、60カ国を招いて有志連合構想の説明会を行ったそうです。
そもそもイランとの関係悪化は、トランプ大統領の薄弱な根拠によるイラン核合意からの一方的な離脱に始まります。
本稿ではトランプ政権の強引な手法がどこまで持つのか、有志連合構想に見えるトランプ政権の限界について考えてみました。
イランとの対立の経緯
もともとアメリカとイランはイラン革命の人質事件以降、外交関係は断絶しており信頼関係はありません。2002年からはじまるイランの核疑惑が起こると、イランに対する経済制裁が始まり関係は更に悪化します。
しかしその後イランは2015年、米オバマ前大統領の働きにより、国連も関与した形で独、仏、露、中、英を加えた6か国協議で核合意が成立し、一旦歩み寄りをみせる時期もありました。
しかしアメリカはトランプ大統領が誕生するや、合意内容が不十分であるとし英仏などの説得にもかかわらずこの合意から一方的に離脱し、新たに厳しい条件をつけ加えてイランに再提示しました。
国連をはじめ英仏などイランとの核合意の加盟各国は唖然としたことと思います。
トランプ大統領の要求は核開発の制限を更に厳しくし、ミサイル開発の中止を加えたものでした。
当然イランは納得するはずがありません。
有志連合構想とは
有志連合構想は本来敵対勢力を排除するために同盟国をはじめとする関係国を集めて賛同者を募ろうとする軍事連合構想を意味します。
しかし、今回の集いは対イランの軍事連合を意味するものではなく、ホルムズ海峡を通過する船舶の護衛を各国に委ね、そのための艦船の派遣や資金の拠出などを求めるための説明会であるとの米政府の案内がありました。
当然同盟国に負担の公平を求めようとするトランプ大統領の発想によるものと思われます。
しかしこの理屈は各国に理解されるでしょうか。もともとイランを追い詰めたのはトランプ政権なはずです。イランは核合意を誠実に遵守していました。
それを一方的にしかも曖昧な根拠で離脱して新たな要求を突きつけた結果、ホルムズ海峡が緊張することになりました。
このトランプ政権の加盟国あるいは同盟国に平等な負担を要求する姿勢は肯定できるところもありますが、この件に関しては筋違いと思われます。
緊張関係がなければ別に艦船の護衛をつける必要もないわけで、緊張をつくったのはトランプ大統領にほかなりません。
堂々と同盟国にこのような主張を押し付けてくる辺りにトランプ大統領の限界を感じないわけにはいきません。
次にトランプ大統領がここまでして追い詰めたいイランの現状はどのようなものでしょうか。
イランの現状は?
アメリカの制裁は確かにイラン経済に影響を及ぼしてはいますが、決してそれによりイランの息の根が止まるわけではありません。
隣国イラクではイランと同門のシーア派親イラン政権が継続して政権を担当しており、戦後の復興にしてもイランの支援がなければ困難なほどに影響力は強化されています。
シリアやパレスチナ、イエメンなどへのイランの影響力に衰えはみられません。
それどころかトランプ大統領の原油の全面禁輸の発動以来、ウラン濃縮について核合意の規定を逸脱するような措置に踏み込む構えをみせています。
最近では、ホルムズ海峡封鎖の恫喝、アメリカの無人偵察機の撃墜、イギリス船舶の拿捕、更に中距離ミサイルの発射実験などでアメリカを牽制しています。
トランプ政権の限界
有志連合構想に集った国々の内、果たしてどれだけの国がトランプ政権に賛同するのでしょうか。
イランは8,000万もの人口を擁する中東の大国です。市場としての潜在性には大きなものがあります。大部分の国々はイランとの関係悪化は望んでいません。
ちなみに離脱した米を除くイランとの核合意の締結国(独、仏、露、中、英)は、核合意について法的に有効であるとの認識の下に水面下ではイランの暴走を抑える動きをしています。
トランプ大統領の一連の行動には人々を愕然とさせるところがあります。
2017年12月にはエルサレムをイスラエルの首都として公式に承認し、アラブ諸国を炎上させたと思ったら、今度は根拠の乏しいイラン核合意の一方的な離脱で無用な緊張状態を作り出し、極めつけは2019年3月のゴラン高原のイスラエルの主権承認です。
これまでの歴代の米政権の忍耐と努力を一瞬のうちに水泡に帰しました。
トランプ政権の強硬な姿勢は今後どのような結末を迎えるのか多くの国々が注目しているのではないでしょうか。
日本のとるべき対応は?
このような政権と同盟関係にあるということを国益の観点からしっかりと認識する必要があります。
日本はイランと敵対する理由はありません。ましてやホルムズ海峡の安全は死活問題であり、イランとの関係悪化は避けなければなりません。
また同盟関係や大義名分はともかくとして、制裁としての原油の不買運動を他国にも押し付けるようなやり方に賛同できるでしょうか。原油を必要としている国にとっては迷惑千万な話です。
たとえトランプ政権が踏み絵を迫ってきても、日本としては国益に鑑み、同意できない圧力には断固とした対応が重要です。
日本のそうした姿勢は国際社会の信頼を得るばかりでなく、後々国益にも大きく寄与することになります。
おわりに
今回のトランプ政権のイランに対する最終的な思惑が軍事侵攻を見据えたものかどうかが懸念されます。
強大な経済力や軍事力を背景とした威圧的な物事の進め方は世界の支持を得られません。先進国としての品格のある外交というものがあるはずです。
日本としてはどのような状況下でも自国の意思はきちんと通すことのできる外交体制を構築しなければなりません。
第2次世界大戦終了後の混沌は既に遠く過ぎ去っており、もはや国際情勢は大きく変貌しています。日米同盟はいずれ終了するでしょう。
このことをしっかりと認識した上で、危機感をもって自力で自国を守る体制を着実に構築し、外交も含めた強固な防衛資産を次の世代に繋げるべきと考えます。