米トランプ政権とイランの間が緊迫している中で、ホルムズ海峡が世界に注視されています。
ホルムズ海峡は石油輸出国機構(OPEC)の加盟国を始めとする湾岸産油国の大量の原油を世界に送り出すための重要な出入り口です。
ホルムズ海峡が世界に注視されているのは、勿論この交通の要衝が閉鎖されるのではないかとの危機感によるものと思われます。
ホルムズ海峡はイランとオマーンの領海内に位置している狭い海峡です。こうした地理的な条件からどんな問題点が考えられるでしょうか。
本稿ではホルムズ海峡の微妙な地理的側面に着目して、その問題点をまとめてみました。
世界に注視されるホルムズ海峡とは
ホルムズ海峡は、アラビア海から入り江状に入り込んだ入口にあたるオマーン湾とその奥に続くペルシャ湾との間に位置する海峡で、クウェートやバーレーン、カタールに行くにはここを通過しなければなりません。
北東はイランの領海で、南西側がオマーンの領海になり、ムサンダム半島が突き出ています。 ホルムズ海峡は水深80m程の狭い海峡で、イランとオマーンの両国の領海内に位置しています。
幅は最も狭いところで34kmあり、イラン、オマーン両国は12カイリの領海を主張している為この海域では領海が重なることになりますが、これについては両国間の合意で基本的に沿岸からの等距離中間線を境界に画定しています。
海峡内では、船舶の衝突予防のために幅3kmの分離航路帯が設けられており、イランとオマーンの中央線よりもややオマーンの領海に入った海域に入り口と出口の分離航路帯が設定されています。
タンカー等はこの航路帯を通って出入りする決まりとなっており、船舶の航行はレーダー等により常に監視されています。
ホルムズ海峡の特徴は、この海峡を挟んで両岸はイラン軍とアメリカ及びその同盟軍が布陣し、互いに厳重な監視体制を敷いていることです。
イラン側は沿岸にミサイル部隊や高速艇などを配置し、周辺の複数の小島にも部隊を配置して監視しており、一方対岸には米海軍とサウジアラビアを始めとする同盟国が警戒態勢をしいています。
両軍が対峙する原因は?
ホルムズ海峡のこのような特徴は、アメリカや同盟国のサウジアラビアなどがイランと対立していることに起因します。
現トランプ政権はイランの核疑惑を持ち出してイラン産の原油を買わないようにと経済制裁を行っています。
またサウジアラビアはイランの革命政権がイエメンを始めとして、アラブ諸国にさまざまな手出しをしており、イランの中東における勢力拡大に危機感を抱いています。
イランはこれまでたびたび敵対国に対し、ホルムズ海峡を封鎖すると脅し、米英やサウジアラビアなどの同盟国は武力を用いても無害通航の権利を確保するとして応酬してきた経緯があります。
ホルムズ海峡は、原油の産出国がこの湾岸に集中しており、毎日産出される大量の原油が世界に輸出されるための海上交通の要衝となっていることが背景にあります。
世界に輸出される原油のうち約3割がこのホルムズ海峡を通って出ていきます。従ってこの流れに滞りが出た場合、原油価格の上昇を招き、世界経済に深刻な影響を及ぼすことになります。
ちなみに日本の原油輸入国はサウジアラビアやクウェートなどを始めとしてこの湾岸に集中しており、原油輸入の80%、液化天然ガスでは20%がこの海峡を通って輸入されており、ホルムズ海峡の航行の自由は日本にとっても重大な意味があります。
ホルムズ海峡の問題点とは
イランが敵対国の制裁の報復として、ホルムズ海峡の封鎖をほのめかし原油の流出を阻止する脅しをすることに正当性があるかどうかが問題となります。
ホルムズ海峡はイランとオマーンの領海内にある狭い海峡です。
しかし、タンカーなどの分離航路帯はオマーンのやや領海内に設けられています。このような位置的状況でイランがたとえ敵対国に対しても、ホルムズ海峡を封鎖すると脅しをかけることは許されるでしょうか。
タンカーはオマーン領海内を無害通航しているわけでこれに対して、イランが阻止行動をすることはオマーンに対する主権侵害で許されることではありません。
オマーン国政府は、1989年8月に国際海洋法条約を批准する際にこの条約の解釈宣言を行っており、要するに領海における船舶の無害通航権を尊重し、容認しています。
では次にイラン領海内を、イランと敵対関係にある国の原油を積んだタンカーが悪意なく航行することを妨害することは正当でしょうか。
ホルムズ海峡は国際海洋法条約で定義されている「国際海峡」であり、航路が世界経済に大きな影響を与える交通の要衝であること、さらに領海の無害通航権は国際社会が共通に認識している確立された国際法であることを考えると正当とはとても考えられません。
今日「領海内の無害通航権」は国際社会において権利として確立されています。1982年の国際海洋法条約において改めて明確に規定されています。
イランのこの条約の批准の有無にかかわらず、こうした国際社会共通の既に確立された認識に異議を唱えるのであれば、国際社会から孤立し、取り残されてしまうでしょう。
経済活動がグローバルに進化した今日、独善的な孤立主義はもはや通用しません。あくまでも固執するならば、体制崩壊や政権交代という結果を引き起こし調整されることになるだけと考えます。
おわりに
国際連合は今日の国際社会において多大な貢献を果たしてはいますが、やはり機能的な限界を感じない訳にはいきません。
一国における統治機構のように、組織的統一的に整備された実効性のある裁定機構とは違います。
国際司法裁判所の判断には実効性が担保されず、安全保障理事会の決議システムにしても常任理事国の拒否権により容易に政治的な要素が入り込みます。
政治力とは「白」を「黒」と言い通す力であり、「実効的支配」という名のもとにとんでもない不法行為も政治的に正当化されてしまいます。
国際社会も更に進化してこの辺りの課題を解決できる時代が早く来て欲しいと願わずにはいられません。