ロシアによるウクライナ情勢が世界の注目を浴びている昨今、武力を以って他国を威嚇することの是非が問われています。
プーチン大統領は、バイデン政権の足元を見透かしたかのように、ウクライナ周辺でこれみよがしに10万規模の軍を集結させ軍事演習を繰り返しています。
本稿では今回のウクライナ情勢を取りあげ、軍事力を背景として自らの厚かましい主張を通そうとする国々に対して、国際社会はどのように対応すべきか考えてみました。
はじめにロシアの主張とはどのようなものでしょうか。
ロシアの主張
ロシアの主張の大筋は、大西洋条約機構(NATO)の盟主たるアメリカに対するもので、直接的にはウクライナをNATOに加盟させないことをはじめとして、旧ソ連圏諸国のNATO加盟を振り出しに戻すことを主張しています。
これらを条約案として提示したところにロシアのNATOに対する強い危機感がうかがえます。アメリカがこれを受け入れると、現在加盟している旧ソ連圏の国々をNATOから排除する条約上の義務を負うことになります。
重要なことは、これらの旧ソ連圏諸国はそれぞれ独立主権国家であり、自由と民主主義、法の支配、更には自国の独立が保障されることから、国民の総意としてNATOへの加盟を選択したことです。
ロシアの危機感
ロシアのこのような強い危機感はどこからくるのでしょうか。
●NATOの東方拡大
東欧の旧ソ連圏諸国が次々とNATOに加盟していくことから、ロシアはNATO加盟国に囲い込まれる状況となり、地政学的に不利な形勢になりました。
2022年現在、エストニア、ラトヴィア、リトアニアといったバルト3国、さらにポーランド、スロバキア、スロベニア、ハンガリー、チェコ、ルーマニアなどのNATO加盟国によってロシアは見事なまでに取り囲まれています。
かろうじてウクライナとベラルーシが西側との緩衝地帯となっており、そのウクライナもNATOの加盟を望んでいることから危機感を強めています。
NATOとは、いずれかの加盟国1国に対する攻撃は全加盟国に対する攻撃とみなし、一致団結して防衛にあたるという強力な軍事同盟です。ロシアとしては、この上ウクライナまでNATOに加盟されたら堪りません。
しかし今回のウクライナ騒動はこのようなロシアの危機感を更に煽るような要因から発生したのではないかと考えられます。
在欧米軍の再編計画
ロシアのNATOに対する危機感を深刻な脅威に変えたのは現在進んでいる在欧米軍の再編計画にあるように思われます。
在欧米軍はこれまでドイツを中心に中核部隊を展開させていましたが、地政学的にもより効率的な防衛、反撃体制を構築する計画に着手しました。旧ソ連圏諸国のNATO加盟状況をみるとそれは十分に可能なことでした。
ポーランドやバルト三国(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)への部隊配置をはじめとして、ルーマニアでは迎撃、攻撃システムの配備などが進められています。そしてこれらの国々もNATO軍の駐留を抑止力として歓迎しています。
ロシアがこうした状況に対抗策を講ずることは当然のことかもしれません。
大国の果たすべき義務とは
アメリカのバイデン政権はウクライナのNATO加盟を阻止しようとするロシアの条約案を拒否しました。
他国の内政に軍事力を背景に介入しようとするこのようなロシアの厚かましい主張は法的根拠に乏しく、認められるものではありません。現状はロシアのウクライナ侵攻がアメリカをはじめとするNATO諸国の牽制によって抑止されているところです。
いまだ未成熟な国際法社会において、国力のある国々が協調してこうした警察機能を果たすことが義務として望まれるところです。
国際社会のとるべき対応
国際社会は一致団結して、大国が武力を以って他国を威嚇し、併合するような事態が黙認されないような対応をしなければなりません。
それには断固とした姿勢が要求されます。今回のロシアとの交渉で、アメリカは話し合いの継続を留保していますが、ウクライナをNATOに加盟させないなどの密約を取り交わしてお茶を濁すなどは断じてやってはならないことです。
これなどはウクライナのみならず国際社会に対する裏切りとなるでしょう。この解決策に妥協の余地はありません。
このような相手には1962年のキューバ危機の再来に至っても止むを得ず、「覚悟」を見せつけることが肝要と考えます。

おわりに
強大な軍事力は国家の品格をも変えてしまうのでしょうか。厚かましい主張も臆面もなくするようになります。
国連憲章第2条4項には、
「すべての加盟国は、その国際関係において、武力による威嚇又は武力の行使を、いかなる国の領土保全又は政治的独立に対するものも、また、国際連合の目的と両立しない他のいかなる方法によるものも慎まなければならない」ことが記されています。
一国の指導者であるならばもう一度国連憲章を読み返してほしいものです。