「NAFTA」の記事がここ最近しばしば目に入ります。
ところでNAFTAって何のことでしょうか。貿易上での国家間の取り決めかなと、この程度の理解はありましたが、どうやらトランプ大統領が再交渉を要求していて、特に最近取りざたされているようです。
NAFTAの交渉の経過次第では関係国の間では大きな影響があるようです。
本稿では最近盛り上がりを見せるNAFTAとはどういうものなのか、さらにNAFTAのその後について簡単にまとめてみました。
NAFTAについて
NAFTAは 1994 年にアメリカ、カナダ、メキシコの3カ国によって締結された自由貿易協定のことです。
目的は相互の国家間の貿易を活発にすることで経済発展をはかり、お互いに富める国になろうというもので、そのために障害となる関税もほとんどかかりませんでした。
この協定はその後20数年間、カナダ、メキシコ共に多少はアメリカ側にぶら下がる形ではありましたが、互いに経済効果もあり続いてきました。
2017年1月、米国にアメリカ・ファースト主義を掲げるトランプ政権が誕生しました。
トランプ大統領は選挙前の公約に「TPP離脱」と「NAFTA再交渉」を掲げていましたが、当選後に即「TPP離脱」を実行し、「NAFTA再交渉」を発表し、8月には再交渉に着手します。
それはカナダとメキシコに対して「NAFTAの再交渉に応じなければ離脱する」という強硬な姿勢でした。
この辺からこのキーワードが世界的に俄然注目を浴びることになります。
NAFTA が見直しされたり終息した場合、米国内の競争力の低い産業は淘汰されずに延命されるかも知れませんが、結果的に米国経済全体の生産性は低下し競争力を下落させます。
結局は米国内の雇用に重大な影響を及ぼすことになります。
国際社会が注目しているこの件はその後どうなったのでしょうか。
NAFTA のその後
再交渉は3カ国間でなかなか合意を得られず、2018年9月に入りアメリカはカナダを除外してメキシコと二国間で合意に達しました。
アメリカとしては、その後時期をみてカナダと再交渉を行う考えでした。
次にメキシコが合意した主な点を挙げます。
- 原産地規則の強化 関税ゼロの条件
域内の部材調達比率を62.5%から75%以上に引き上げること。
- 賃金条項 関税ゼロの条件
部材の40~45%を時給16ドル以上の地域で生産すること。
これにより人件費の安いメキシコへの工場移転を阻止し、生産地をアメリカ域内にした。
- 数量規制の追加 台数枠を設定
米国への乗用車輸出台数が240万台を超えると、25%の関税が課されるということ。
メキシコの昨年の輸出実績が約170万台ですが、240万台に達するのは時間の問題です。
これらは合意であり、まだ法的に発効したものではありません。
最終局面はどうなったの?
事態が動いたのが10月1日でした。
カナダとアメリカ、メキシコの3カ国は NAFTA の再交渉が妥結したことを発表したのです。
3カ国間の枠組みを維持したまま NAFTA 新協定(USMCA)という形で合意に至りました。
カナダ側の譲歩もあり、これまでの相互の合意の枠組の上で定まったようです。
自動車関連では前項の「原産地規則の強化」や「賃金条項」を踏襲し、「数量規制」についてはやや緩和された形になっています。
すなわちメキシコとカナダに対して、ライトトラックと年間260万台までの乗用車の関税賦課は対象外とされています。
また米畜産業はカナダの乳製品市場の3.5%に参入できる予定とされています。
さらに米通商拡大法232条に基づく鉄鋼やアルミニウム製品の追加関税に関してはアメリカ側は譲歩できず、カナダとメキシコ側が数量割当などの手段で合意に達するまで関税は維持するようです。
一方、カナダとメキシコ政府は、232条に関連する米国の追加関税発動や輸入制限措置が現行の NAFTA や USMCA および WTO の規定に適合しない場合には、対抗措置を取ることや WTO に提訴する権限を留保しています。
こうしてこの問題はとりあえずの解決に至りました。
まとめ
メキシコに投資している日系企業の数も既に1100社を超えているそうです。
最悪の事態に至らなかったのは不幸中の幸いと言えます。
この度の騒動は遥か遠い他国のことなのに、世界中が戦々恐々と大騒ぎになりました。
それだけ影響を受ける国が多いということでしょう。
それにしても大きな影響を及ぼす国同士の厳粛な取り決めを離脱するかどうかの決定が、ただ一人の判断に委ねられていることに、何とも言えない危機感を覚えた次第です。