カダフィ政権崩壊後8年が経ちます。リビアでは現在も東西が分裂し戦闘が続いています。
7月2日夜、リビア西部の首都トリポリ近くで移民保護施設が空爆を受け40名近い死者と70名以上の負傷者が出た模様です。
また翌月の8月10日に、今度はリビア東部のベンガジで車を使った爆破攻撃により、国連機関の職員3名を含む多数の犠牲者が出たそうです。
リビア内戦はカダフィ政権崩壊後も決して終結したわけではなく多くの民間人や非戦闘員が巻き込まれ、現在も続いています。リビアではいつ何が起こっても不思議ではない状況です。
カダフィ政権崩壊後リビアはどうなったのでしょうか、リサーチにつれリビアの悲惨すぎる現状が見えてきました。
本稿ではリビアの現状を分かりやすく解説します。
はじめに40年以上も続いたカダフィ独裁政権の崩壊の経緯は何だったのでしょうか。
カダフィ政権崩壊の経緯
2010年12月に隣国チュニジアで、政権に抗議した青年の自殺をきっかけに大規模なデモが起こり、翌年1月、23年続いたベン・アーリー政権は倒れました。これはジャスミン革命といわれ、「アラブの春」の発端となった出来事でした。
この大衆デモはたちまち周辺諸国に拡散します。リビアにおいても2月15日に起こった、拘留中の人権派弁護士の釈放を求めるデモから始まりました。
政権側は沈静化のために当初柔軟な対応をするもデモは収まらず、次第に拡大し大規模な反政府運動となりました。この混乱の裏にはカダフィ政権に危機感を持つ欧米の特定勢力の存在も考えられるところです。
これに対してカダフィ大佐は軍を繰り出し無差別殺戮を命じました。これを目の当たりにして政権内部からも批判が出始め、離反した高官は国連でカダフィ政権の虐殺を国際社会に訴え援助を求めました。
結局、徹底抗戦を叫ぶカダフィ政権との内戦は長期化したのですが、NATO軍の支援を得られた反体制派のリビア国民評議会は、同年8月首都トリポリを陥落させカダフィ政権は崩壊しました。実に42年にわたる長期独裁政権でした。
リビアという国の特徴
リビアという国の特徴は、いくつかの部族的な集団により構成されており、自己の属する集団への帰属意識が強く、並列して存在する集団同士で結束、協調するという考え方が培われておらず、もともと選挙により代表を選出するということに成熟していません。
このような部族的集団をカダフィ大佐がその独特なカリスマ性で統率して国家を形成していました。
ただしこの時複数の集団を必ずしも平等、公平に扱っていたわけではなく、優遇していた部族と冷遇していた部族がありました。
優遇されていた部族は当然カダフィ政権に忠節を尽くします。冷遇されていたほうは反体制派に回り、この両者は政権崩壊後も凄惨な報復合戦を繰り返します。
カダフィ政権崩壊後の悲惨な現状
カダフィ政権崩壊後、リビアは東西に分裂し、国連が承認するトリポリのイスラム系「国民合意政府」とトブルク代表議会政府、そして親カダフィ派のIS系組織、その他の地方勢力が乱立し、たちまち石油施設の奪い合いや石油利権をめぐる凄まじい抗争と部族間の報復が始まりました。
各集団は独自に議会を設置して地域内を実効支配し独立性を維持しています。そこには互いを尊重し、協同して新しい国を創り出そうという発展的な姿勢や、西側先進諸国に共有される倫理観などはかけらもありません。
事態をさらに複雑にしているのはそれぞれを背後から支援し、争いを煽っている国々が存在することです。
トリポリの国民合意政府はこれらの集団を統制できず、未だに新憲法の制定の目途はたっていません。このような現状はリビアの第二次内戦と呼ばれており現在まで続いています。
治安の悪化からリビアの原油産出量が安定せず、このことは原油相場や周辺諸国の安全保障にも深刻な影響を与えています。欧米の仲介も成果にはつながっていません。
近年では2018年に欧米諸国の提唱でイタリアのシチリア島のパレルモで各集団の代表を集め和平のための国際会議が行われましたが、新体制構築の具体的な進展は見られません。
シチリア島やイタリア沿岸にはリビアからの大量の難民が漂着して人道問題に発展しています。
リビアの今後は?
内戦の終結が望まれます。2019年現在、リビアの最大の問題点は東西の分裂にあります。
対立の構図は国連が承認している、西部のトリポリの「国民合意政府」と、東部のベンガジを実効支配しているハフタル指揮下の民兵組織「リビア国民軍(LNA)」との戦闘です。
トリポリの「国民合意政府」は中東の大国トルコとの強い協調関係があり、一方、ハフタル指揮下のLNAはリビア東端トブルクの「代表議会(HoR)」政府と連携し、エジプトやUAEなどに支持され、その卓越な作戦能力の故に国際社会からも認められつつある民兵組織です。
このハフタル指揮官が国連主導の国民会議による和平プロセスに従わず、トリポリを自身の力で陥落させようと進軍作戦を強行していることから戦闘状態となっているのが現状です。戦闘のたびに大勢の非戦闘員が犠牲になっています。
当然、米、英、仏、伊を始めとする欧米諸国に加えてこれまでハフタル指揮官を支援していたUAEまでもが共同声明を発し国連主導の国民会議による和平プロセスを支持する声明を発しています。
あくまでも武力で押し通そうとする独善的な勢力は、不気味に復活しているIS過激派とともにリビアの悲惨な現状をさらに悪化させるものであり、これらは同時に根絶されなければなりません。
そのための国連を中心とする国際社会の協調した圧力が求められます。リビアの悲惨な現状を収束させるためには避けて通る訳にはいきません。
おわりに
政権崩壊前のリビア国民の暮らしぶりについて、カダフィ大佐は石油による収入を国民に分配していました。
政権に反抗さえしなければ国民はそれなりの手厚い庇護を受けており、それゆえにカダフィ政権支持派も大きな割合で存在していました。このことは42年もの長期政権が続いた理由とも言えます。
カダフィ政権の崩壊は、独自通貨の発行により西側の影響力を排除しようというカダフィ大佐の思惑に危機感を抱いた西側の巨大な黒幕が水面下で画策した結果だとする説もあります。
リビアの混乱が収束しない理由には、贈収賄、貪欲、裏切り、報復、虐殺など、暫定政権も含めた部族間のモラルの徹底した欠如とともに、対立する東西の勢力をそれぞれ背後から支援している国々の存在があります。
このような支援国を断ち切ることが悲惨な現状を終わらせるための第一歩であり、そのためには国連をはじめとする国際社会の一致団結した実効性を伴う圧力が不可欠と考えます。