米中貿易摩擦に見えるアメリカの危機感!

アメリカと中国が互いに関税発動の応酬を繰り返しています。先行きが見えず交渉は中断しています。その端緒は米中間の貿易の不均衡を是正しようということでした。

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これに先立ちアメリカは近年急速に国内の中国政府系企業の活動や中国系留学生の流入を制限する動きをしています。そこには中国に対するアメリカの危機感が垣間見える気がします。

この二国間の貿易摩擦問題は、単に当事国間で貿易赤字を調整したり、貿易不均衡を是正すれば解決できるといった単純な問題ではないようです。

どうやら最先端のハイテク技術と国の安全保障をかけた両国の面目と覇権にかかわる徹底的な争いのようです。

本稿ではこの米中貿易摩擦に見えるアメリカの危機感についてまとめてみました。

中国の急速な技術革新

この問題が起こる背景には中国の急速な技術革新があります。

一般に、一国の特許の国際出願件数はその国の経済発展と技術革新の度合いに比例すると言えるのではないでしょうか。

以下に世界知的所有権機関 (WIPO)による、2017年企業別特許の国際出願件数ランキング10傑の概数を挙げます。

第1位 [華為技術(中国)出願件数:4000件]
第2位 [中興通訊(ZTE)(中国)出願件数:2900件]
第3位 [インテル(米国)出願件数:2600件]
第4位 [三菱電機(日本)出願件数:2500件]
第5位 [クアルコム(米国)出願件数:2100件]
第6位 [LGエレクトロニクス(韓国)出願件数:1900件]
第7位 [京東方科技集団(中国)出願件数:1800件]
第8位 [サムスン電子(韓国)出願件数:1700件]
第9位 [ソニー(日本)出願件数:1700件]
第10位[エリクソン(スウェーデン)出願件数:1500件]

参考:WIPO発表による国際特許出願件数(2018年版)

以上の結果から分かることはアメリカを代表する大企業「インテル」も、特許の国際出願件数において、既に大差で中国企業にトップの座を明け渡しています。

これは中国が2015年に「中国製造2025」を掲げて以来、手段を選ばず、なりふり構わず官民を挙げてハイテク産業育成策を推進した結果です。

これらの出願の中には通信、航空、医療、ロボットなどの高度な最先端のハイテク技術に関する案件も相当数含まれています。

アメリカの危機感

こうした趨勢はアメリカも認識してはいましたが、中国がここまで加速度的にハイテク技術を獲得するとは予想していなかったと思われます。

GDPは世界第2位にのし上がり、桁違いの人口を擁しており、頭脳明晰な学生を次々とアメリカに留学させ、彼らはアメリカから数々のハイテク技術を習得して帰国します。

今や中国は豊富な予算を割り当てて、独力で高度なハイテク技術を施した航空機や艦艇を開発、製造できる侮ることのできない経済大国となっています。

このままでは近い将来、覇権を中国に奪われかねないと、ようやく一部の人達は事の重大性に気付き、中国の拡張を阻止しようと立ち上がりました。

まずは半導体及び次世代情報通信技術の流出を阻止しなければなりません。5Gはアメリカにとって国家の安全に関わる極めて重要な核心的な技術であるからです。

そのための第一段階としてやりたい放題の不正を働く企業や個人を排除しなければなりません。

排除対象者についてはアメリカのFBIやCIAなどの諜報機関により、ほぼ正確に特定されているものと思われます。

中国系企業の活動制限

このようなアメリカの危機感は前オバマ政権時代にも上申されてはいましたが、結果的に実効性のある対応はなされて来ませんでした。アメリカとしては行動を見せつけなければなりません。

現トランプ政権はその第1弾として、2018年4月に中国通信機器大手、中興通訊(ZTE)にイランと北朝鮮に対する禁輸措置の違反などを理由として禁輸措置を発動しました。

中興通訊(ZTE)はアメリカから半導体などの主要部品の調達ができなくなり、破綻寸前まで追い詰められました。

半導体の主要部品は中国は未だに完全自給には至っておらずその技術の大半は韓国及びアメリカの製品に頼っています。

しかしこの時は中国政府やアメリカ企業からの要請もあったことで、多額の罰金支払い、役員の全面刷新、コンプライアンス遵守などの条件により2018年7月には制裁を解除しています。

その第2弾は華為技術に向けられました。華為技術は中興通訊(ZTE)の5~6倍の売上規模を誇る大企業です。

2019年5月15日、華為技術が制裁対象のイランとの金融取引に関わったとの理由で米国製ハイテク部品などの禁輸措置を発動しました。

華為技術は中国政府のスパイ活動やサイバー攻撃にも共謀しているとの疑いを以前から持たれていましたが、今回の華為技術への制裁では禁輸措置の緩和や解除の可能性も含めています。

その意味は次回の米中貿易協議の際の取引材料となることにあります。
貿易が停滞することは中国ばかりではなく、アメリカ国内も甚大なダメージを被ることになリ、貿易交渉は妥結するに越したことはありません。

アメリカの要求と現状

中国にたいしてアメリカは概ね以下のような要求を出し交渉しています。

「中国製造2025」の政策の停止
特にハイテク企業への支援金の供出などにより、スパイ活動やサイバー攻撃、米国企業の知的財産権の侵害が行われているとして、その元凶となっている「中国製造2025」の政策の停止を要求。

外国からの投資の際の技術移転の強要の停止
外国資本の企業にこれまで中国は強制的に技術移転を要求していたが、それを禁止するよう法整備をすること。

国有企業への国家補助を止めること
政府が国有企業を民間企業よりも優遇することを禁ずる「競争上の中立性」を守ることを要求。

世界貿易機関(WTO)は輸出促進のための企業への補助金は禁止しており、こうした中国政府の支援策により著しく不公正な競争を強いられる欧米企業が多数存在しています。

これらのアメリカの圧力に対して中国政府は当初低姿勢を貫いていましたが誠意がみられず、結果的にはトランプ政権を刺激し、今日のような出口の見えない関税発動応酬の現状になっています。

一方、華為技術は2019年3月、国防権限法に基づく米国内での事業活動の制約は米国憲法に違反するとして連邦地裁に提訴しトランプ政権とは徹底抗戦の構えです。

おわりに

トランプ大統領は中断している米中貿易協議は6月の大阪のG20首脳会合で行われるであろうと、協議の継続の意思を表明しています。

しかしアメリカの要求は中国政府の政策の構造的な改革に繋がるものであり、中国政府が受け入れるとは考えにくく、その解決は長引きそうな気配があります。

或いはどちらかの政権が倒れることで決着がつくのかも知れません。

アメリカの危機感は理解できるとしても、グローバルな経済全体に及ぼす影響が懸念されます。