台湾総統選は蔡英文現総統が圧倒的な支持を得て勝利しました。台湾の自由と民主主義は守られました。
このことはどのような意味を持つのでしょうか。
本稿では台湾の蔡英文政権圧勝の意味と、日本としての対中国政策に関する今後の進むべき道について考えてみました。
はじめに、台湾は自由と民主主義の国家であり、一方中国は共産主義一党独裁の国家です。この二つの政体はどこが違うのでしょうか。このあたりから簡単にお話していきたいと思います。
共産主義政権とは
共産主義体制に「思想・信条の自由」ということはありません。共産主義体制とは内心の領域まで管理します。そのためには手段を選びません。
現在のウイグル自治区では100万人以上もの人々が不当に拘束され、再教育の名のもとに思想、信条を変節させられています。中華人民共和国に忠誠を誓う忠実な配下により、「イスラム教の中国化」を目指した徹底的な変節教育がなされています。
このウイグル自治区の凄惨な人権侵害はアメリカを始めとして西側諸国では大きな人道問題として認識され中国を非難していますが、日本のマスコミではほとんど取り上げられていないことに不思議な気がします。
また、人権擁護のために奮闘していた熱血弁護士がある日突然にわけのわからない事由により当局に逮捕・拘束され、数年後に釈放された際に再会した奥方は、主人のあまりの変わりように言葉を失ったという話もありました。
今回の台湾総統選に対する中国現政権の有形無形の嫌がらせや恫喝、介入は図らずも全世界に彼らの危険な側面を知らしめることになりました。
私たちはここで、人権ということに加えて、自由と民主主義は暴力により潰されてはならない普遍的な価値であることをとりわけ認識しなければなりません。
蔡英文という人
現台湾総統の蔡英文という人は、中国共産党政権の危険性を熟知、洞察しており、自由と民主主義の堅持のためには妥協を許さない毅然とした対中政策を推し進めることのできる台湾における唯一の人と考えられます。
台湾は当初国民党の一党独裁体制でしたが、李登輝総統の代になると、世界に例のない奇跡的な「上からの無血革命」により民主主義国家に改造されました。
その時に李登輝総統の、中国と台湾に関する「二つの中国」という新しい考え方、すなわち「特殊な国と国の関係」論の発表にも法律顧問として深く関わったのが蔡英文、現総統でした。
中国に対する断固たる姿勢は多分に李登輝総統の影響を受け継いでいるようにも思われます。
2004年には台湾の二大政党の一つ、民進党に入党し政治家として本格的な活動を開始して今日に至っています。
それではここで、あろうことか万一台湾が中国に取り込まれた場合、日本に及ぶ影響について考えてみます。
台湾が中国に取り込まれると……
万一台湾が中国に取り込まれる場合、以下の懸念が生じます。
日本は巨大な共産圏国と隣り合わせになる
日本のみならず米国にとっても台湾は西側陣営の最前線に位置づけられます。
すなわち現在台湾は共産圏の大きな波に対する防波堤として機能しており、西側陣営の自由と民主主義を間接的に守っています。
台湾が中国に取り込まれると日本は巨大な共産圏国と直接境界を接することになります。
アジア諸国が次々に中国の影響下に入る
台湾が中国に取り込まれた場合、東アジアの勢力圏が大きく変動します。すなわちアジア諸国は次々と中国共産圏に飲み込まれていくことが懸念されます。
これによりアメリカのアジアにおける影響力は消滅します。
エネルギー供給路が危険にさらされる
日本は原油や液化ガスなどのエネルギー源を中東から台湾海峡経由で輸入しています。
台湾が共産圏に入り、その交通路が遮断されるような事態が発生するとたちまち日々のエネルギーの供給が途絶えることになります。日本にとっては死活問題になります。
しかしこのような懸念事項も蔡英文政権の圧勝によって遠のきました。蔡英文政権圧勝にはどのような意味があるのでしょうか。
蔡英文政権圧勝の意味とは
今回の台湾総統選における蔡英文氏圧勝の意味は、すべての台湾国民が台湾総統選に対して、恥も外聞もなく、子供じみた嫌がらせや恫喝をして介入してくる現中国政権の恐ろしい本質を認識したことにあるかと思われます。
中国としては台湾独立を堅持する蔡英文政権を潰したいばかりに、あれこれと小細工を弄したものの、それらすべてが逆効果となり、結果的に台湾には親中派政権は生まれず、自由と民主主義を堅持する政権が圧倒的多数の支持の下で誕生することになりました。
中国の大きな失策と言えるでしょう。
では日本は今後中国とどのような外交政策が考えられるでしょうか。
日本の執るべき対中政策
今や巨大な共産圏国家となった中国との付き合い方について、台湾の蔡英文総統がヒントとなる重要な言葉を残しています。
今後の中国との関わりについて、
- 台湾の自由と独立性は断じて放棄するつもりはなく、「一国二制度」のごときは受け入れがたいこと
- その上で台湾は、中国との対話は閉ざすつもりはなく「平和」「対等」「民主主義」のもとに「台湾」として両国の安定のために話し合う用意があること
総統選勝利後に、要旨として以上のような内容のコメントを発しています。
日本の場合、台湾とは局面が異なるとしても、これはそのまま日本の対中国政策の骨子となり得るものと考えます。
日本の対中外交政策としては一言で表すと「是々非々主義」に徹することが最善と考えられます。
現中国政権の笑顔の裏に隠された恐ろしい一面を決して忘れてはなりません。それらを踏まえた上で、「非」に対しては断固とした姿勢をとらなければなりません。
おわりに
台湾総統選では、蔡英文政権の圧倒的勝利という結果になりました。「香港騒動」も台湾国民の賢明な選択に繋がったものと思われます。
ともあれ台湾の自由と民主主義が守られました。
自由を願う台湾国民のみならず、西側陣営すべての国々がひとまずは、ほっとしたというところではないでしょうか。
ここで台湾は日本にとって極めて重要な位置づけであることをしっかりと認識しなければなりません。
現安倍政権は中国の習主席を国賓待遇で招待するそうですが、台湾の重要性を認識した上でのことなのでしょうか。台湾政府はこのことをどのように捉えているでしょうか。親日国、台湾の対日不信が気になります。
どちらにしても今後、日本としては台湾をはじめとする自由と民主主義の価値を共有する国々との密接な連携を保つことは極めて重要になります。
さらに、日米同盟に依存せずに、独力で自国を防衛できるほどの、強固で実効的な防衛能力の充実と国を守るための法整備の構築は急務と考えます。