今月24日、ミュラー元特別検察官は米下院の公聴会において、いわゆるロシア疑惑の全容について報告を行いました。ミュラー元特別検察官はロシア疑惑が起こった当初から最前線で捜査にあたっていました。
ロシアのアメリカ大統領選挙介入が事実とすれば、民主主義の仕組みの脆弱さが目ざとく標的にされたことになります。あれほど強力なヒラリー候補はどうして敗退したのでしょうか。
一体どういう手口で他国の大統領選挙に介入できるのでしょう。
本稿では、いわゆるロシア疑惑とは何か、さらにアメリカ大統領選挙介入の手口を分かりやすく調べてみました。
はじめにロシア疑惑とは何かお話していきます。
ロシア疑惑とは?
巷でよくいわれる「ロシア疑惑」という言葉には、当初「ロシアによるアメリカ大統領選挙への介入」という意味と「ロシアとトランプ大統領との共謀」というの2つの意味合いがありました。
しかし捜査が進んでいくうちに次第に後者の意味合いでこの言葉が使われるようになりました。その理由はロシアは間違いなく介入したことが判明したからです。
したがって現在ではロシアによる大統領選挙介入はトランプ大統領との共謀によるものなのかという点に捜査の焦点が絞り込まれています。
ロシア疑惑の発端と経緯
アメリカ大統領選挙直前の2016年10月、ヒラリー候補が所属する民主党のコンピューターが大規模なサイバー攻撃にさらされました。調査の結果アメリカ国土安全保障省はロシア政府によるものであることを断定しました。
ロシア疑惑はこうして始まりました。
この結果を受け、当時のオバマ大統領はすかさずロシア外交官35人の国外退去と関連施設2箇所を閉鎖するとともに事の仔細を糾明すべく、ミュラー特別捜査官が任命され捜査にあたりました。
捜査を進めていくうちに、ロシア政府の関与が判明するとともに、トランプ一族とロシアの新興財閥との密接な関係が明らかになりました。トランプ大統領は以前莫大な資金援助を受けていたのです。
こうした思いがけない経緯からロシアの選挙介入は重大な問題ではあるが、トランプ大統領とロシアが共謀、結託したのではないかというさらに重大で深刻な問題がクローズアップされてきました。
これは米国民に対する裏切り行為であり国家反逆罪に相当します。
このロシア疑惑が「ロシアゲート」と呼ばれるのは1972年の盗聴事件「ウォーターゲート事件」をもじったものです。
次項では他国の大統領選挙にどのように介入して影響を与えることができるのか、その手口について解説します。
大統領選挙介入の手口
選挙介入の手口は、国民一人ひとりの民心をかく乱させることにあります。議会制民主主義国家において、代表者の選出は国民一人ひとりが持つ一票の投票権にかかっています。
大統領になってほしくない人物を特定して、その人物の不利となる情報や有りもしない噂を大量に拡散すると、その噂を信じてその人に投票しない人が出てきます。
逆に大統領になってほしい人物には反対にその人の良い行いや、素晴らしい一面を取り上げて情報を拡散していきます。その情報の真偽は問題になりません。
こうした風説の流布は大きな力があり、企業の倒産や株価の変動に影響を与えるばかりでなく、大恐慌の発端ともなります。
その手段はサイバー攻撃とSNS、及びロビー活動により行われます。以下に解説します。
サイバー攻撃
コンピューターの専門集団による攻撃になります。コンピューターさえあれば場所の問題は起こりません。いつでもどこでも攻撃可能です。その目的は情報の窃取と拡散にあります。
相手事務所のコンピューターに侵入して大量の情報を盗み出し、分析し目的に合致する情報を集めます。各種リスト類や経費の支払い記録、メールの交信記録、主要人物の個人情報など様々なものが目標になります。
収集された情報の拡散はコンピューターによっても可能ですが、拡散する専門のグループに渡されます。
SNSの利用
民主主義国家では基本的にSNSは検閲を受けません。情報の拡散にはSNSは絶好の役目を果たします。
無数のSNSアカウントを取得してSNS上で仕入れた情報を拡散します。情報によっては一気に炎上します。
「移民」とか「人種」など特にその国で問題になっている事柄に対して出馬する人物はどのような姿勢でいるのかなど、情報を集中的に拡散させます。
ロビー活動
訓練を受けた複数の人物が相手国に入り込み、善良な一国民を装い政治パーティーなどのロビー活動を展開します。
陥れたい人物の周辺の人々に近づいたり、当選させたい人物に近づいたりして情報を交換します。買収その他の資金は潤沢に用意されています。
ほぼこのような手口で相手国の選挙に介入して影響を与えることは可能です。民主主義の脆弱なところが悪意ある攻撃対象となり得るわけです。
ロシアの選挙介入はあった…?
2018年2月、ミュラー特別検察官はロシア人13人と3つの企業を大統領選挙介入のためのロビー活動を行った容疑で起訴しました。ロシアの選挙介入はほぼ正確に解明されているものと思われます。
ロシア疑惑について、プーチン大統領は米NBCテレビでの会見で、ロシア政府は関与していないとしながらも、一部の愛国的な集団が行った可能性を認めています。
こうしたロシアの他国への選挙干渉は今に始まったことではなく、EUのフランス大統領選挙やドイツ総選挙にもサイバー攻撃による関与が色濃く疑われています。
フランスでは極右のルペンは敗退、ドイツはメルケル首相が勝利し意図はくじかれています。ロシアとしては欧州勢や米英を中心とするロシア包囲網を何とか崩そうという思いがあります。
ロシアはもはや関与を否定することは困難なほど証拠を握られているものと思われます。かといってロシア政府が関与したと言うわけにもいきません。
こうした状況の下に現在のアメリカにおける最大の焦点はトランプ大統領のロシアとの共謀疑惑になります。
トランプという人…?
トランプという人は大統領選挙に臨むまでに一度ならず複数回破産しています。負債額は莫大な金額です。そしてそのたびに不死鳥のごとく再臨してきました。
その背後には複数の世界的な大富豪の姿が見え隠れしています。今回明らかになったロシアの新興財閥もそのうちの一つです。
もともとはビジネスマンでありグローバルな交流がある事自体は何の問題もありません。
しかし今や一国の大統領を務める人物が、たとえ過去のことであったとしても他国の財閥系企業と巨額のお金のやりとりがあったことには違和感を感じざるを得ません。
トランプ大統領はこの捜査がはじまるや側近を解任するなど大統領権限による司法妨害と疑われる行為を行っています。
これまでのところ、トランプ大統領はロシアの選挙介入を認めてはいますが、ロシアとの共謀や捜査の司法妨害については強く否定しています。
おわりに
ロシア疑惑の捜査自体は2019年3月に、ミュラー特別検察官の400頁にわたる最終報告書の提出で終了しました。
今月24日、ミュラー元特別検察官は米下院で結果報告を行いました。
その要旨として、
- ロシアの大統領選挙介入は広範囲かつ組織的に行われたこと、
- ロシアとトランプ大統領との共謀については立証するには至らなかったこと、
- トランプ大統領の司法捜査妨害の疑いについては現職大統領は訴追しないという慣例に従い判断を見送ったこと、
以上の報告に加えて、ロシアは必ずや次の米国大統領選挙へも介入してくるであろうことを警告しています。