ウクライナの現状とクリミア半島併合の経緯について!

ロシアによるクリミア半島併合からまる5年が経ちました。

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紛争はクリミア半島だけに収まらずウクライナの東部2州にも飛び火して今だに続いています。

ロシアはこの暴挙により国際社会の大きな非難を浴び、経済制裁を受けています。主要国首脳会議、G8の参加資格も停止されました。

本稿ではウクライナの現状を俯瞰し、さらにクリミア半島併合の経緯について、ロシアの抱く懸念と共に今一度分かりやすくまとめてみました。

はじめにウクライナは現在どのような状況なのでしょうか。

ウクライナの現状

ここではウクライナの経済と現在起こっている政治的な状況について解説していきます。

ウクライナの経済

ウクライナという国は旧ソ連時代には「ソ連の穀倉地帯」といわれ繁栄しました。東部は鉄鉱石や石炭などの天然資源に恵まれ、主に鉄鋼業、製造業が盛んで、ロシア系の人が多く住んでおり、多いところでは地域で3~4割もの人がロシア系で、言語もロシア語を話します。西部はウクライナ人が多く農作物が盛んです。

人口
ウクライナは2018年時点で約4,500万人の人口を擁しています。この内クリミア半島の自治共和国は230万人。

1人あたり名目GDP
以下に2018年におけるGDPを概数で挙げます。

ウクライナ、一国の名目GDPは13兆2,000億円で世界第59位。

以下に1人あたり名目GDPの概数を国境を接している近隣諸国の数値と共に挙げます。地理的に接しているウクライナの東側と西側諸国との比較ではかなり開きがあることが分かります。

ウクライナ  31万円
ロシア    120万円
ベラルーシ  67万円

また西側に隣接する諸国は以下の様です。

モルドバ    34万円
ポーランド   64万円 現EU加盟国
ハンガリー 169万円 現EU加盟国
ルーマニア 130万円 現EU加盟国
スロバキア 210万円 現EU加盟国

ちなみに日本は417万円です。

ウクライナは中世から近世の繁栄の割に、周辺諸国との比較においてもあまりにも貧しい経済状況であることが分かります。

これは社会主義経済圏に組み入れられ、従属関係にあったことが要因なのかも知れません。現在も石油や天然ガスなどのエネルギー資源はほぼ全てロシアに依存しています。

ウクライナの抱える債務

ウクライナは2019年現在も巨額の対外債務を抱えています。リーマンショック以降の危機的状況は変わらず、EUやロシア、IMFなどからの緊急融資で何とかしのいでいる状態です。これをどうするかが今後の課題となっています。

援助国にしても、支援資金が制裁を加えているロシアにそのまま返済の名のもとに流れ込むというジレンマがあります。またギリシアの例もあることから国際支援機関も救済には消極的です。

安定しない政情

さらにロシアとの間にクリミア半島問題を抱えているほか、東部の2つの州(ドネツク州、ルハンシク州)で親ロシア派の自治政権と戦闘中で、既に5,000人近い死者が出ています。対外債務の問題もさることながらまずはこの戦闘を終結させることが喫緊の課題とされています。

ウクライナとロシアとの関係は深く、帝政ロシア以前からウクライナは長い間、従属関係に甘んじてきた歴史があります。

多くのロシア人がウクライナ領土に移り住んでおり、民族的な対立も絡んで相互に信頼関係に乏しく、このことがすべての問題に繋がっているように思われます。

クリミア半島併合の経緯

クリミア半島併合の経緯とともに、そのような決断に至ったロシアの懸念について解説します。

ロシアの懸念その1

ロシアの懸念は、ウクライナに親欧米政権が誕生することにあります。下手をすると現在租借地となっているセバストポリから黒海艦隊が退去することになりかねません。

不凍港の確保はロシア外交の原則であり、ロシアにとって戦略的にも重要なクリミア半島の放棄はあり得ません。

2008年にウクライナの親欧米政権が黒海艦隊の租借期限を2017年で打ち切る決定をしました。

慌てたロシアはヤヌコビッチ前政権に巨額の融資とエネルギー価格の引き下げを持ち出して2042年まで延長させた経緯があります。ロシアはこの一件で大いに危機感を持ちます。

ロシアの懸念その2

ウクライナの親欧米政権の悲願は何とか貧困から抜け出すためにEUに加盟して活路を見出したいということです。

EU側としてもウクライナ経由でロシアから4割近くのエネルギーの供給を受けていることから重要な位置にいるウクライナをEU陣営に確保したい思惑があります。

一方ロシアにはEUに対抗する「ユーラシア連合構想」があります。これは有志諸国により関税同盟を基軸とした経済と政治面での連携をしようというものです。

この連携にはウクライナは欠かせない国です。旧ソ連時代にはロシアに次いで重要な役割を担っていました。「ソ連の穀倉地帯」といわれた、その当時のウクライナの繁栄は忘れることはできないのでしょう。

こうした思惑からロシアとしてはウクライナにEUに加盟してもらっては困るし、ましてやNATOに加わるなどは容認できることではありません。

クリミア半島併合決行

2013年11月、ロシアにとっては絶好の機会がやってきました。ウクライナでクーデターともいえる大規模なデモが発生しました。

EU加盟を見送る決断をしたヤヌコビッチ政権に野党と国民が猛反発して立ち上がりました。これには政権の腐敗も原因となっていると言われています。

その結果翌年2月、議会は大統領の解任を決議し、臨時政府を立ち上げました。ヤヌコビッチ大統領は逃走しロシアに保護されました。

この時クリミア半島は所属はあくまでもウクライナにある自治共和国という体裁になっています。

自治共和国とは
自治共和国とは独立した国家の中の州や県、市よりも一層強い政治的独立性を持っている地域の呼称です。いわば国家の中の国家といえるほどに強い自治権を持っているのが特徴です。自治区や自治州よりも独立性は強いとされています。

ソ連が崩壊した後にクリミア半島の所属について疑義が生じ、その際にウクライナとロシアが話し合い、政治的な決着としてクリミア半島は自治共和国となりました。

この半島の特徴は戦略的重要性と共に半島の約半数近くがロシア人であることにあります。そのためウクライナの中央政府にははじめから大きな抵抗感があり、自治共和国の名のもとに独立性を保っていました。

ウクライナのキエフの広場では暴力的な極右集団が大勢集まり、クリミア半島の奪還を叫んで盛り上がっています。クリミア半島のロシア人は大きな恐怖感を抱きます。

このような状況下で独立の動きが高まり、2014年3月、クリミア自治共和国とセバストポリ市の議会はクリミア共和国として独立宣言をします。ロシア側の主張では公正な住民投票で圧倒的多数の賛成が得られたとしています。

間髪を入れずにロシアは条約を締結しクリミア半島をロシア領土に編入しました。こうして世界が非難するロシアによるクリミア半島の併合が決行されました。

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おわりに

ロシアによるクリミア半島の併合は国際社会の承認は得られていません。

ウクライナは地理的に東西をつなぐ陸続きの国であリ、中継地としても重要であることから国内にロシア人をはじめとして複数の民族が混在しています。

このような事情から一国として隅々まで等質的な施政を行うのは困難なのかも知れません。そのため政情も安定せず、あちこちに自治共和国ができる素地があるように思われます。

クリミア半島のロシア人を含むすべての人々に対してウクライナ政府としてきちんとした誠実な施政が行われていたならばこうした事態に至らなかったかも知れません。

現在戦闘中の2つの自治共和国もロシア人が主体であり、それぞれ独立を宣言しています。こちらもロシア軍の介入が確認されています。

ロシアとしてはとりあえずクリミア半島は確保できたことでもあり、これ以上の国際社会の非難は避けたいところです。表面上は無関係の構えを見せています。

やがて大きな犠牲を払って鎮圧されることになるのでしょうか。